波に消えたタルモゴイフ

たしか未来予知の発売二日後だったと思う。
秋葉原のカードショップで新カードを何の気なしに眺めていたところ、１枚５０円で表題のカードが売られていた。

当時、私はコモン戦、というニッチな環境に属しており、周囲にプレイヤーもおらず、ＳＮＳで半年位に一回行われる大会に出る程度なもので、スタンダードのプレイヤーではなく、それどころかＭＴＧのプレイヤーといえるのかすら怪しい立ち位置であった。

だが、そのカードのテキストには妙に気が惹かれるものがあった。
プレインズウォーカー云々は何のことか判らないが、ソーサリー・インスタント・クリーチャーが墓地にあるだけで既に３/４である。
２マナのクリーチャーとしては上々の性能ではないか。
使う当てもないが、そのカードを４枚２００円で購入し、その日は帰宅した。

ご存じの通り、そのカードはものすごい勢いで高騰し、やっぱりな、と私は独り悦に入っていたが、購入した封筒に入ったまま使う機会もなかった。
売ってしまってもよかったが、相手もおらず、店売りで買い叩かれるのも癪にさわる。
というより、面倒だったのだろう。
ようやく封を開けたのは１年くらいあとだっただろうか。
とはいっても私が入用だったのではない。大学時代の後輩が何かの大会に出るため、貸してほしいと請われ、久しぶりに日の目を見たタルモゴイフは即座に別な封筒にまた包まれて私の手を離れていった。

大会が終わっても、私は返却を求めなかった。
私の手元にあっても使うことは今後まずないだろう。それならば、有効に使ってくれる人の手元にあった方がいい。
その後輩は陸前高田市に住んでいた。
２０１１年３月１１日、波が彼の町を浚っていった。
































と、ここで筆をおけば、辛うじて読み物として成立しているのかもしれない。
地震から一週間後、後輩氏の無事が確認された。
被災した人にカードを返してくれとも言いにくく、相変わらず使う当てもないのでそのことについては私は何も言っていない。
１枚５０円で印刷物が数年後には数千円になり、波間に消えていったであろう光景を想像し、不謹慎ながら私は可笑しみを禁じえなかった。
































更に今年になって、後輩氏は所持していた車は流されたものの、住んでいたアパートは無事だった旨を共通の友人から知った。
タイトル詐欺じゃねーか、と思われた方、ごもっとも。